★2020年5月20日『「武漢ウイルス」から露見した「中国の真相」日本の皆様へ 台湾から伝えたいこと』 https://this.kiji.is/635451604733707361 (47NEWS)より転載しました。
昨年12月、中国より拡大した「武漢ウイルス」は約187国・地域に広がり、感染者は480万人を超えて、31万人以上の命が奪われました(数字は5月19日時点)。これほどの人的被害の発生は第2次世界大戦以降で初めてです。最大規模の「人為的ミス」による災難と言えます。中国と最短で幅約130キロの海峡を隔てたところに位置する台湾も大きな被害は免れ得ないところでした。ただ、蔡英文政権が迅速な対応策を取ったことで、感染拡大の抑え込みに全体としては成功しています。(寄稿、台湾総統府・最高相談役=蕭新煌)
▽SARSの教訓
成功の背景として次の3つを挙げます。
@2003年に中国を発生源とし、台湾でも多数が死亡した重症急性呼吸器症候群(SARS)を教訓に、台湾の疾病管制署が昨年12月31日から武漢発直行便の検疫を強化するなど、蔡政権は早い段階から防疫対策に取り組みました。A蔡政権と多くの台湾人は、SARSの際の情報隠しなど中国の「虚偽体質」を繰り返し見聞きしてきた経験から、中国を全面的に信用していません。B世界保健機関(WHO)が「武漢ウイルス」への対応で、当初からあからさまな「中国寄り」の対応を取ったことで、台湾はWHO発の情報を信用することなく、独自の判断で防疫対策に当たりました。
蔡政権の初期段階の施策としては、1月22日に中国疫区との往来を禁止し、台湾入境者全員に14日間の強制隔離を厳格実行することを決めました。マスク対策では、行政院(内閣)が24日に輸出停止を表明する一方、国内生産を企業に促して増産し、政府が全面的に管理下に置くことで国内6千か所の健康保険特約薬局で平等に購入できるシステムを構築しました。
▽中国観光客は事前に激減
実は「武漢ウイルス」が発生した時点で、台湾を訪れる中国人観光客は少なくなっていました。背景には複雑な経緯がありました。
親中路線の国民党の馬英九前政権は2014年に中台が一段と市場開放を進める「サービス貿易協定」締結を中国と進めてきました。対中急接近に危機感を強めた学生らは、同協定締結について審議中の立法院(国会)を占拠する「ヒマワリ運動」を起こし、締結阻止につなげました。仮に締結されていれば、中国全土からさまざまな業種の中国人が大量に台湾に押しかけていた恐れがありました。ただ、中国は同協定締結が阻止されたことに不満を強めました。
さらに、台湾独立志向の民主進歩党(民進党)が16年の総統選と立法委員(国会議員)選で勝利して再び与党になりました。これに対しても中国は強く反発しました。中国は圧力強化の一環として、台湾を訪れる観光客を制限し、昨年8月から中国から台湾への個人観光旅行を全面的に停止しました。
これらが台湾を訪れる中国人が激減した理由です。思い返せば、サービス貿易協定を阻止しようと懸命に抵抗した若者たちの勇気ある行動こそが、「武漢ウイルス」による台湾での被害を最小限に抑えられたきっかけだったといえます。
▽国際社会の対中批判
中国とWHOは、今回のウイルスが「中国・武漢に由来する」という事実を隠すために「武漢ウイルス」という呼び方を別名に変えようとしています。さらに、世界中がウイルス対策で躍起になっている最中に、台湾周辺に頻繁に軍用機と軍艦を派遣し、台湾の領空と領海を侵犯してきました。これらの動きは、台湾国民の対中嫌悪感を高める一方です。
中国は3月末から「国際親善援助」として欧米や南米諸国などにマスクや医療資材を送りました。各国からの賞賛を期待しつつ、災害便乗商法も同時に推進しています。
しかし、スペインでは中国企業から購入した検査キットが不良品だと判明して5万8千個が返品となったり、オランダでも中国製マスクを回収、トルコでも検査キットの欠陥が見つかったりするなど中国製から多くの不良品が見つかりました。このような非道徳的行為に対し、責任感と正確な判断力を有する各国政担当者が中国に好印象を抱くはずがありません。
「武漢ウイルス」の感染拡大に対し、米政府の関係筋は「第1級殺人に相当する」と指摘した上で、中国に対して欧州人権裁判所に提訴するなどの法的措置を取ることを検討していると発表しました。ブラジルも「(中国が)ウイルスの中心地」と非難しています。国際司法裁判所、全インド弁護士会も賠償請求に向け、国連に調査提案を提出しました。さらにイギリス外交シンクタンク「ヘンリー・ジャクソン協会」も損害賠償請求報告書を作成しています。感染拡大が一定程度落ち着いた後、次々と中国を相手取った損害賠償の請求が始まるとみられます。
▽中国によるサイバー攻撃
中国は「5千年の歴史を有する」などと大国ぶりをアピールし続けています。しかし、台湾に対するこそくな振る舞いからは大国としての器量は全く感じられません。
中国は世界各国の大総領事館に駐在している外交官を総動員するとともに、共産党が指導する「サイバー軍」を活用して、台湾への友好的な言論に対して激しい中傷誹謗、さらには恐喝などの攻撃を続けています。サイバー軍は、国内外の世論を中国の主張に沿うように誘導することを狙っています。
台湾の陳時中衛生福利部長(衛生相)は今年1月20日に発足した中央感染症指揮センター対策本部のトップを兼任して以降、毎日欠かさず記者会見を開いて、感染を巡る最新情報や対策について丁寧に説明しています。陳部長の真摯な姿勢に対して、国民は熱い信頼を寄せ、人気は極めて高くなっています。しかし、中国は台湾に留学に来ている中国学生らを使ってネット上に「ナイフを磨きながら(いずれ)殺す」と書き込み、陳部長を脅迫しました。台湾の警政署(警察庁)の調査によると、複数の中国人留学生が関与していたとされます。中国による台湾世論の攪乱を狙った浸透工作を裏付けました。
▽台湾のマスク支援
蔡英文政権は台湾の感染対策に力を入れるとともに、国際社会への配慮も忘れていません。1月時点でマスク生産能力は日産188万枚でしたが、現在は日産1500万枚に達しています。そのため、欧州連合(EU)に700万枚、米国に200万枚、日本に200万枚、台湾と外交関係を結ぶ友好国に100万枚を贈呈しました。厳しい管理により品質は高く、世界各国の政府関係者から高く評価されています。また、マイクロソフトの創業者ビル・ゲイツ氏や著名歌手のバーブラ・ストライサンド氏らからも台湾に対する熱い賛辞が寄せられています。
▽グローバリゼーション再評価を
「武漢ウイルス」の世界的感染拡大を受け、過去20年間に政治家や産業界、学術界、メディアが讃えてきた「グローバリゼーション」を評価し直す必要に迫られています。「グローバル化」は過度に美化され、支持する人たちは資本、金融、投資のグローバル化の長所しか見てこなかったと思います。一方、「反グローバリゼーション」を主張する人たちは、批判の対象を階級社会の二極化や地球環境破壊といった分野に集中していました。「グローバル化に伴う感染症の拡大」という副作用は、全く研究されていません。
今回の世界規模の感染拡大は、まさに今、世界に警鐘を鳴らしています。今後の社会科学の視点や世界の人々の見方を変えるきっかけとなるのは間違いありません。さらに、世界金融株式市場の脆弱さ、人類の命の安全にかかわるグローバル化がもたらしたリスクについても、改めて考え直さなければならいと思います。
▽民主の台湾、洗脳の中国
今回の感染拡大により、浮き彫りになった事実は他にもあります。
まず、台湾です。蔡英文政権が的確に対応できた根本的な理由は、民主主義の価値を堅持しつつ専門知識を最大限活用し、政権が強いリーダーシップを発揮したためです。そして、台湾国民の根気強さと、他者を思いやる優しい心が台湾を支える最強の力となっています。そうした中、台湾で民主主義のメリットを受けながら、中国共産党の顔色をうかがいつつ片棒を担ごうとする親中政党は極めて残念な存在です。
次に、中国です。感染拡大に対する責任を反省することなく、ウイルスが人工的につくられたとの指摘に対しても説明をしていません。このような中国政府に洗脳された中国人は、グローバル化に伴い、民主主義などの価値観を掲げる西側社会に接する機会を得られているにもかかわらず、簡単には一党独裁の中国共産党への盲信から抜け出せないことが明らかになりました。
▽日本と国際事業で協力を
台湾は中国の執拗な妨害によって、WHOから排除されています。WHOに加盟できていないため、世界各国に通報されている情報を受けることができません。台湾は厳しい現実をかみしめつつ、懸命に自力で国民の健康を守ってきました。
中国による絶え間ない嫌がらせにより、さまざまな局面で国際社会から排除されるという理不尽な目に遭ってきました。しかし、今回の世界的危機に当たり、台湾は世界に対する人道的支援活動を展開しています。台湾国民の大多数は微力ながら、国際貢献に尽くしていきたいと願っています。日本とも今後もさらなる信頼関係を築き、多くの国際事業で手を携えていくことができればと願っています。(2020年5月19日)
蕭新煌(しょう しんこう) 1948年12月26日生まれ、台北市出身。米ニューヨーク州立大バッファロー校社会学研究所博士。国立中央研究院社会学研究所・元所長、国立台湾大学社会学部教授。専門は環境社会学、開発社会学。アジアにおける振興民主主義など。1996〜2006年に総統府国策顧問。16年から現職。